公開:2026.06.10 01:04 | 更新: 2026.06.10 04:04
サイバー空間をめぐる脅威は年々高まっています。警察庁の報告でも、サイバー攻撃につながる不審なアクセスの検知件数は増加傾向にあり、フィッシング報告件数も右肩上がりで増加しているとされています。
サイバー攻撃や内部不正などのインシデント対応では、被害拡大の防止、復旧、関係者への報告など、さまざまな対応が求められます。その中でも、原因特定や影響範囲の確認を行ううえで欠かせないのが、調査に必要な証跡を適切に保全しておくことです。
多くの企業では、ログ管理ツールやEDRなどを活用し、不審な挙動を確認する体制を整えています。しかし、実際の事後調査では、収集されたログだけでは十分な証跡が残っておらず、より詳細なデータ保全が必要になるケースも少なくありません。
本記事では、インシデント対応におけるデータ保全の課題と、事後調査をより円滑に進めるために必要な「事前の証拠保全」という考え方について解説します。
※本記事内容に関する出典・参考
令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について(令和8年3月警察庁サイバー警察局)
※本記事内容に関する出典・参考
参考ブログ:現代の捜査術:デジタルフォレンジックとは?
はじめに
まとめ|事前の証拠保全がインシデント対応とフォレンジック調査を支える
インシデント対応では、被害拡大を防ぐための初動対応や復旧作業と並行して、「なぜ発生したのか」「どこまで影響があるのか」を確認する事後調査の重要性が高まっています。そこで重要になるのが、フォレンジック調査に使える証跡です。
デジタルフォレンジックでは、PCやサーバ、ネットワーク機器などに残されたデータをもとに、発生した事象を調査・分析します。しかし、調査に必要なデータが残っていなければ、原因特定や影響範囲の確認は難しくなります。
たとえば、不審な通信やアラートが確認できたとしても、実際にどの端末で、どのプロセスが実行され、どのような操作が行われたのかまで追えなければ、十分な事後調査にはつながりません。
つまり、インシデント対応の事後調査においては「ログがあるか」だけでなく、「フォレンジック調査に使える状態で証跡が残っているか」が重要になります。
では、フォレンジック調査に使えるログとは、どのようなものでしょうか。
ログ管理ツールでは、Windowsイベントログ、認証ログ、VPN接続ログ、メールログなどを集約して管理することが一般的です。また、EDRでは、端末上のプロセス実行、通信先、ファイル操作、ハッシュ値、コマンドライン引数など、よりエンドポイントに近い情報を収集できる場合があります。
もちろん、これらのログはインシデントの兆候を把握したり、初動対応の判断材料にしたりするうえで非常に重要です。ログを取得していない状態と比べれば、調査に使える手がかりは大きく増えます。

一方で、フォレンジック調査では、ログに記録された情報だけでなく、端末内部に残るさまざまな痕跡も重要な判断材料になります。
たとえばWindows端末であれば、ファイルの作成・変更・削除の痕跡、過去に実行されたプログラムの履歴、USB機器の接続履歴、Web閲覧履歴など、OSやアプリケーションが残す「Windowsアーティファクト」と呼ばれる情報があります。これらは原因特定や影響範囲の確認に重要な手がかりとなりますが、一般的なログ管理ツールやEDRのログだけでは確認しきれない場合があり、詳細な解析には端末内に残る証跡を直接確認する必要があります。
結果として、必要な証跡を漏れなく確認するために、対象端末のディスクをイメージとして丸ごと保全し、詳細な解析を行う対応が必要になることがあります。しかし、この作業をインシデント発覚後に一から始める場合、調査開始までに時間がかかってしまうという課題があります。
ディスクイメージを取得する場合、単に端末内のデータをコピーすればよいわけではありません。フォレンジック調査で利用するためには、証拠性を損なわないように、対象端末の確認、保全手順の整理、取得環境の準備、データ取得、ハッシュ値による確認など、複数の工程が必要になります。
また、対象となる端末が複数ある場合や、拠点が離れている場合、利用者との調整が必要な場合には、保全作業に入るまでにも時間がかかります。端末の容量や状態によっては、イメージ取得そのものにも数時間以上かかることがあります。
データ保全はフォレンジック調査に欠かせない重要な作業です。しかし、有事の際に初めて準備を始めると、その作業自体が調査開始までの大きなボトルネックになってしまいます。
状況によっては、調査に必要なデータがそろい、実際の解析に着手するまでに2〜3日かかることも珍しくありません。
たとえば、次のようなケースでは、調査に必要なデータをそろえるまでに時間がかかりやすくなります。
このように、データ保全を1から始める場合、実際に解析へ進む前の段階で多くの時間を要することがあります。

データ保全に時間がかかる理由の多くは、インシデントが発覚してから対象端末の特定や保全手順の確認を始めることにあります。
そのため、調査を円滑に進めるには、有事の際にすべてを始めるのではなく、平常時から必要な準備をしておくことが重要です。
たとえば、次のような対策が考えられます。
どの端末で不審なプロセスが実行されたのか、どの端末に影響の可能性があるのかを確認できるようにしておくことで、全端末を闇雲に調査する必要を減らせます。
インシデント発覚後に慌てて手順を確認するのではなく、誰が、どの端末を、どのように保全するのかをあらかじめ決めておくことで、初動の迷いを減らせます。
プロセス情報やハッシュ値、実行パスなど、後から調査に使える情報を継続的に残しておくことで、ディスクイメージ取得前でも状況把握の手がかりを得やすくなります。
取得したデータをすぐに共有できる状態にしておくことで、物理的な輸送や受け渡しにかかる時間を短縮できます。
このように、事前に証跡を保全できる体制を整えておくことで、インシデント発覚後の「これから集める」状態から、「すでにあるデータを使って調査を始める」状態に近づけることができます。
インシデント対応では、検知や復旧だけでなく、原因特定や影響範囲の確認に必要な証跡を残しておくことも重要です。
ログ管理ツールやEDRで取得できる情報は非常に有効ですが、実際のフォレンジック調査では、端末内部に残るより詳細な証跡が必要になるケースもあります。そのため、有事の際に一からデータ保全を始めるのではなく、平常時から調査に使える情報を残しておくことが、事後調査を円滑に進めるための備えになります。
当社では、こうした事前の証拠保全を支援する製品として Forensic Snapper を提供しています。端末単位で導入を検討できるため、まずは一部端末からフォレンジック・レディネスを整えることも可能です。

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